2017年10月20日

第35回:日本人の知らない日本一の国語辞典(松井栄一・小学館新書2014)

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 国語辞典
 一家に一冊……と言いたいところだが、電子辞書、ネット検索の時代に一冊あるかどうか、怪しい。

 わが家には二冊ある。
 広辞苑岩波国語辞典
 一時期岩波書店にかぶれていた時に買った。

 ピンポイントで素早く引きたい時には電子辞書も使うが、紙の辞書を引かなくなったら脳みそは確実に退化すると思っているので、キホン紙。

 辞書という言葉の海にどっぷりつかってユラユラ揺られる感覚は、あの紙の辞書にこれでもかと細かい字で詰め込まれた圧倒的ビジュアルがなければ味わえない。未知の言葉に溺れていくことで新しいものが生まれる。

 三浦しをんさんの「舟を編む」で辞書編集者という仕事にもずいぶん光が当てられるようになった。
 この本もそういう流れがあって書かれたものだろうが、「日本一の国語辞典」とはまた大仰な題名を付けたものである。

 しかしこの「日本一」というのが単なる煽り文句の見せかけではなく本物なのである。

 小学館「日本国語大辞典」全13巻と別巻、まぎれもなく日本一の収録語数50万を誇る日本唯一の「大」国語辞典のことを指す。これに比べると広辞苑もまだまだ子ども?いや赤ちゃんか?
 その編集者が日本語のそして国語辞典の楽しみ方を教えてくれる。

 「無人島」。読んでください。

 ……「むじんとう」

 正解!

 「むにんとう」はバツ……?

 たぶんバツでしょう。

 でも明治時代ならOK
 江戸時代なら「ぶじんとう」で正解。

 言葉というものは時代を映し、常に変化をしていくもので、何が正解なんてことは絶対的に決められないようだ。ちなみに広辞苑には「むにんとう」も載っている。

 ……ということは先生がつけたバツはPTAで問題になりそうだ。文部科学省が出てきて、作家先生が出てきて、東大文学部のお偉い教授が出てきて「国文学の歴史をひもとけば…」うんぬんかんぬん「そもそも無人島とはいかなる定義づけをすべきか…」喧々諤々。そんな折、件の先生が謎の失踪を遂げ、無人島で遺体となって発見される……。

 こんな無人島談義から、思わぬバカバカしい空想が広がっていったりもする。


 他にこんな話もある。
 「終止」「習字」「重視」「従事」「自由詩」。さてどう国語辞典に配列する?

 シュウシ、シュウジ、ジュウシ、ジュウジ、ジユウシ

 どうでもいいことだし、ただ引いてしまえばその言葉がいつか出てくるから気にも止めないが、これも編集者が一定の法則で並べるべく苦心惨憺しているのである。
 ちなみに日本国語大辞典の初版では先に書いた通りの順序だったが二版では「従事」と「自由詩」が入れ替わっているらしい。

 言葉を話して生きている以上、言葉は大切にしたい。言葉に魂の宿る国の国語辞典。
 一度まるっと一ページ読んでみては。



 
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ラベル:国語辞典 小学館
posted by ガウス at 11:06| Comment(0) | 文系紙本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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