2017年10月31日

第36回:月と六ペンス(サマセット・モーム 金原瑞人訳 新潮文庫2014)

ビブリオイズム36.jpg

 謎の題名が、読み終わったあと解明され「ああ、そう言う意味だったのか!」とすっきりする小説が精神衛生上は良い。

 「月と六ペンス」には「月」「六ペンス」も出てこない。

 謎の題名は謎のまま残され、解釈は読者に委ねられる。答えは読者の数だけあり、すっきりはしない。

 だがそういう小説も良い。読者がどこに「月」を見、「六ペンス」を見るか、あるいは全く見ないか、それは自由である。

 本書は主人公である中年男ストリックランドがある日画家を目指して、家族も社会も捨て破滅的に人生を満たしていく物語である。

 世間的には破滅であり、取るに足らない「六ペンス」の人生も、本人的には至福であり「月」のごとく静かに揺ぎなく輝く人生はありうる。
 そしてまっとうな社会生活を平生営んでいる現代の人ほど、そういう人生にどこかで憧れる。
 自分の生き方を貫くために、社会の常識と真っ向対峙する人生に憧れる。

 「『おれは、描かなくてはいけない、といっているんだ。描かずにはいられないんだ。川に落ちれば、泳ぎのうまい下手は関係ない。岸に上がるか溺れるか、ふたつにひとつだ』」

 「月と六ペンス」は求める人が読めば、しがらみから自らを解き放つ力を持つ。




人気ブログランキング
posted by ガウス at 10:54| Comment(0) | 物語紙本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください